小さな老人ホーム かざぐるま 
 







北海道芦別市における特別養護老人ホームの計画である。「芦別市サテライト型居住施設特区」認定を受け全市的な高齢者福祉計画が策定された。従来一施設での機能完結が求められた老人ホームが、施設相互の機能補完を前提に小さな単位での展開が可能となったのがサテライト型居住施設である。 小さな老人ホームになることで、老人ホームが「まちなか=地域」に展開できるようになった。一方、高齢者福祉の現場ではユニットケアや地域介護力の活用など新しい取り組みが実践されつつある。これらに応える提案が求められている。 地域に溶け込み、地域住民との相互理解を形成するにはシンプルな建築的「しかけ」が有効であると考えた。外観は地域で親しまれる表情やスケールを考慮し、周辺でよく見かける色や形体を組み合わせる構成とした。公園に隣接する敷地の特性を活かし、敷地内には近隣の方が自由に利用できる散策路を設け人の引き込みを意図した。また散策路に面する共用部に利用者や家族に限らず誰もが利用できる地域交流スペースや喫茶スペースを配した。現在これらは地域ボランティアにより管理、運営されている。初期段階から運営者が地域住民の計画への参加に取り組んだ成果である。 内部は住宅的スケール、単位、素材を心がけた。10人がひとつのユニットを形成し、これが2層重なり20名のホームとなる。ユニットの10名はすべて個室を持ち、個室とユニットの間に空間的・心理的緩衝となるサブリビングを設けた。個室にはトイレ、ミニキッチン、2つの窓を備えることで、利用者は「個室」「ユニット」「ホーム」の3段階の生活領域を自由に選択できる。 部屋の窓からは公園や畑、山並みが楽しめる。時間や季節の移ろいを感じ、利用者の生活に変化と喜びを生むことを期待している。